インサート金型

2024.09.06

インサート成形は、製品の小型化と高機能化が進む今日の製造業において、現代のものづくりに不可欠な役割を果たしています。この技術は、異なる材料を一体化させる成形方法であり、そのための金型がインサート金型です。金属部品と樹脂を組み合わせることで高機能な製品を製造でき、電子機器や自動車部品など幅広い産業分野で活用されています。インサート金型とは何か、その種類、製作技術、そしてメリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。

インサート金型とは

インサート金型とは、射出成形用の金型の中に金属部品などをあらかじめ配置し、その上から樹脂を射出して金属と樹脂を一体化させる成形方法に使用される金型のことです。この技術は、異なる材料を組み合わせて一体成型することができるため、製品の機能性や耐久性を向上させることができます。インサート成形と射出成形は、どちらも樹脂成形の方法です。射出成形は、溶融した樹脂を金型に高圧で射出し、冷却固化させて製品を得る方法です。この方法は、単一の樹脂材料を使用して製品を作る際に広く用いられています。

一方、インサート成形は、射出成形の一種ですが、金型内にあらかじめ金属部品などのインサート材を配置し、その周りに樹脂を射出して成形する方法です。インサート成形の主な特徴は以下の通りです。

複数材料の一体化

金属部品と樹脂を一体化させることで、それぞれの材料の特性を活かした製品を作ることができます。金属以外にもガラスが用いられたり、異なる樹脂が用いられたりすることもあります。

強度・耐久性の向上

金属部品と樹脂を一体化で成形することで、単一材料では得られない強度と耐久性を実現できます。

工程の簡略化

従来の組立工程を省略でき、部品点数も少なくできるため、生産効率の向上とコスト削減につながります。インサート金型は、特にコネクター部品や電子部品など、金属の周りを絶縁体で覆う必要がある製品の製造に多く使用されています。インサート成形を行うことで、製品の小型化、軽量化、高機能化が可能となり、現代の製造業において重要な役割を果たしています。

インサート金型周辺の構造と種類

インサート成形とは、異なる材料を組み合わせて一体成型するための工法です。ここでは、インサート金型周辺の構造と代表的な金型の種類を紹介します。

周辺構造

金型

金型は大きく分けて固定側と可動側の2つの部分から構成されています。オス型は射出装置側(固定側)に、メス型は型締め機構側(可動側)に取り付けられます。

キャビティ

オス型とメス型が合わさってできる空洞部分で、最終製品の形状を決定します。インサート金型の場合、金属部品を収納するスペースと、その周囲に樹脂を流し込むための空間が精密に設計されています。

スプルー、ランナー、ゲート

溶融樹脂は、まず「スプルー」(または「スプール」)と呼ばれる通路を通り、次にスプルーから分岐して成形品に向かう通路である「ランナー」、そしてランナーから最終的な入り口「ゲート」を経由してキャビティ内に流れ込みます。インサート金型では、金属部品との干渉を避けつつ、樹脂が均一に流れるよう、これらの構造が慎重に設計されます。

エジェクタ機構

可動側のエジェクタプレートに固定されたエジェクタピンが、金型内の成形品を突き出すことで離型させます。インサート成形の場合、金属部品と樹脂が一体化した製品を傷つけずに取り出せるよう、配慮が必要です。

ガイドピン

金型の固定側と可動側を正確に合わせるためのピンです。インサート成形では高精度な位置合わせが必要なため、特に重要な役割を果たします。

縦型金型

縦型射出成形機に使用される金型です。インサートを固定しやすいため、インサート成形に有利とされています。

横型金型

横型射出成形機に使用される金型です。インサート成形も可能ですが、縦型に比べるとインサートの固定が難しい場合があります。

インサート金型製作に使われる加工技術

インサート金型の製作には、精密加工技術が必要とされます。主な加工技術には以下のようなものがあります。

放電加工

  • ワイヤー放電加工:複雑な形状の金型を高精度に加工するのに適しています。
  • 型彫り放電加工:深い凹部や複雑な3次元形状の加工に使用されます。

切削加工

  • マシニングセンタ:金型の基本形状や平面部分の加工に使用されます。
  • 高速切削:硬質材料の高効率加工が可能です。

研削加工

  • 平面研削:金型の平面度を高精度に仕上げるために使用されます。
  • 円筒研削:円筒形状の部品の精密加工に適しています。

レーザー加工

  • 微細加工:小さな穴あけや微細な形状の加工に使用されます。
  • マーキング:金型への刻印やマーキングに利用されます。

3Dプリンティング

  • 試作金型:短期間で試作金型を製作する際に活用されています。
  • 複雑形状の造形:従来の加工法では困難な複雑形状の造形が可能です。

電解加工

  • 微細加工:非常に小さな部品や複雑な形状の加工に適しています。
  • バリ取り:金型表面の微細なバリを除去するのに効果的です。

表面処理技術

  • 窒化処理:金型の耐摩耗性を向上させます。
  • PVDコーティング:金型表面の摩擦係数を低減し、離型性を向上させます。

これらの加工技術を適切に組み合わせることで、高精度で耐久性の高いインサート金型を製作することが可能となります。

インサート金型の製作においては、金属部品と樹脂の熱膨張率の違いや、複雑な形状の実現など、様々な技術的課題があります。そのため、これらの加工技術を駆使しつつ、材料選択や設計段階での綿密な検討が不可欠です。

インサート成形に使われる材料

インサート成形では、金属と樹脂を組み合わせて一体成形を行います。それぞれの材料選択が製品の品質や性能に大きく影響するため、適切な材料の選定が重要です。

金属

インサート材には主に以下のような金属が使用されます。

  • 銅合金:導電性が高く、電気・電子部品に適しています。
  • アルミニウム合金:軽量で熱伝導性が高く、放熱部品などに使用されます。
  • ステンレス鋼:耐食性に優れ、強度が必要な部品に適しています。
  • 真鍮:加工性が良く、電気伝導性も高いため、電気部品に多く使用されます。

樹脂

インサート成形に使用される代表的な樹脂には、以下のようなものがあります。

熱可塑性樹脂
  • PMMA(ポリメチルメタクリレート):通常はアクリル樹脂と呼ばれ、透明度が高く、光学的な用途に適しています。
  • ポリブチレンテレフタレート(PBT):寸法安定性、電気特性が良好です。
  • ポリフェニレンサルファイド(PPS):耐熱性や耐薬品性が非常に高く、過酷な環境で使用される部品に適しています。
  • ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体):衝撃強度が高く、加工が容易であり、一般的な用途に広く使用されています。
熱硬化性樹脂
  • フェノール樹脂:優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性を持ちます。
  • ABS樹脂:耐衝撃性、成形性が良好です。

それぞれの素材の組み合わせは、成形性、耐熱性、強度、絶縁性、金属との密着性、熱膨張率の差、電気的特性などを考慮する必要があります。また、金属以外にも、電子機器では、高い防水性を確保するためにガラスもインサート成形の材料として用いられています。

なお、必ずしも金属と樹脂が組み合わされるわけではなく、種類が異なる樹脂を一体化させることもあります。

インサート成形のメリット・デメリット

インサート成形は、製造業において重要な役割を果たしていますが、メリットだけではなくデメリットもあります。

メリット

  • 小型化
    インサート成形は金属端子と樹脂部分を一体化することで、従来の組立方式よりも小型で高精度な部品の製造を可能にします。
  • 工程の簡略化
    従来の組立工程を省略できるため、生産効率が向上し、コスト削減につながります。
  • 高機能化
    異なる材料の特性を組み合わせることで、単一材料では実現できない機能性を持つ製品を作ることができます。
  • 品質向上
    一体成形によって部品間の接合部がなくなり、耐久性や信頼性が向上します。
  • 軽量化
    金属部品の一部を樹脂に置き換えることで、製品全体の軽量化が可能になります。
  • デザインの自由度
    複雑な形状や多機能な製品設計が可能となり、製品の付加価値を高めることができます。

デメリット

  • 初期投資コスト
    インサート金型の設計・製作には高度な技術と設備が必要であり、初期投資コストが高くなる傾向があります。
  • 技術的難易度
    金属と樹脂の熱膨張率の違いや、複雑な金型設計など、高度な技術が要求されます。
  • 生産速度
    金属部品のセットなど、追加の工程が必要となるため、単純な射出成形に比べて生産速度が低下する可能性があります。
  • 不良品のリスク
    金属部品の位置ずれや樹脂との密着不良など、特有の不良が発生するリスクがあります。
  • リサイクル性の低さ
    異なる材料が一体化しているため、製品のリサイクルが困難になる場合があります。

インサート金型の使用を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に考慮し、製品の要求仕様や生産規模、コスト面などを総合的に判断することが重要です。